AI入門

AI時代の家庭学習で必要な「親の関わり方」:研究からわかる支援のコツ

レイ先生

タブレット学習、AIドリル、ChatGPTのような対話型AI。
家での勉強にデジタルやAIが当たり前になってくると、多くの保護者がこんな戸惑いを感じます。

解き方はAIが教えてくれるなら、親の役割って何?

禁止も放任もしたくないけど、ちょうどいい距離感がわからない…

この記事では、海外の研究や国際機関の報告をベースに、

AI時代の家庭学習で、親は「何を」「どこまで」関わると、子どもの学びが伸びやすいのか

を整理します。難しい専門用語はかんたんに言い換えながら、「今日から使える声かけ」まで具体的にお伝えします。

レイ先生
レイ先生

この記事は私がこれまでに読んできた海外の文献を基に書きました。

1. AI時代の家庭学習で何が変わったのか

デジタル+AIで、家庭学習は「見えにくく」なった

今の家庭学習には、次のようなものが入り込んできています。

  • AIドリル、アダプティブ・ラーニング(理解度にあわせて問題が出てくる教材)
  • インテリジェント・チュータリング・システム(ITS:ASSISTmentsなど)
  • オンライン教材や動画授業
  • 対話型AI(ChatGPT などの生成AI)

こうしたツールは、個別最適化・即時フィードバックという大きなメリットをもつ一方で、

  • 画面の中で何が起きているか、親からは見えにくい
  • 子どもがどこまで自力で頑張ったのか、どこからAIに頼ったのか分かりにくい

という「ブラックボックス化」の問題も指摘されています(UNESCO, 2025 / APA, 2025 など)。

「教える親」から「伴走する親」へ

従来、家庭での親の役割は、

  • 分からないところを解説する
  • 宿題をチェックする

といった「ミニ先生」に近いものでした。

ところが、解説や採点はAIや教材がかなりの部分を代わりにできるようになったことで、研究者たちは、

親は「勉強を教える人」から、「学び方を支える人」にシフトする必要がある

と指摘しています(Hoover-Dempsey & Sandler, 1995/2005)。


2. 研究が示す「親の関わり方」のキホン

Hoover-Dempsey & Sandler:関わり方の質が成果を決める

Hoover-Dempsey & Sandler の親の関与モデル(1995/2005)は、
「親がどう関わるか」が子どもの成績や学習意欲にどうつながるかを整理した有名な枠組みです。

デジタル時代に当てはめると、ポイントはこうなります。

  • 親にITの専門知識は要らない
    → 重要なのは「一緒に関わるつもりがあるか」という役割意識
  • 親が「自分の関わりは意味がある」と信じているほど、実際に関わりが増え、子どもの成績も伸びやすい
  • 関わり方は
    • 励まし(がんばりを認める)
    • モデリング(親自身が学ぶ姿を見せる)
    • 強化(よい学習行動をほめる)
    • 指導(やり方・考え方を一緒に整理する)
      といった形で現れる

ここで大事なのは、親が「コンテンツ(教科内容)」を教えるかどうかではなく、学び全体をどう支えるかだという点です。

自己調整学習(SRL):AI任せにしないためのカギ

自己調整学習(Self-Regulated Learning: SRL)は、

  • 自分で目標を立て
  • 計画し
  • 振り返る

といった「学びを自分でコントロールする力」です(Zimmerman モデル)。
オンライン・在宅学習では、この力が弱い子ほど脱落しやすいことが多くの研究で示されています(Zhuら, 2024 など)。

一方で、AIドリルやITSは「今日やる問題」「次に解くべき問題」を自動で出してくれるため、

何も意識しないと、目標設定や振り返りを「AIに丸投げ」しやすい

という危険もあります。

そこで親に求められるのは、

  • 「今日はどこまでやるつもり?」(予見)
  • 「今どこでつまずいてる感じ?」(遂行)
  • 「次はどうすればもっと上手くいきそう?」(省察)

といった声かけで、SRLのプロセスを支えることだと複数のレビューが指摘しています(Evidence for Learning, 2020 など)。

自己決定理論(SDT):自律性を支える親か、コントロールする親か

自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT, Deci & Ryan)では、

  • 自律性(自分で選んでいる感覚)
  • 有能感(できそう、できたという感覚)
  • 関係性(人とのつながり)

の3つが満たされると、内発的動機づけが高まりやすいとされています。

2024年のメタ分析(Bradshawら, 2024)やWangら (2024) の研究では、

  • 自律性支援的な親の関わり
    → 学力・動機づけ・メンタルが良くなる傾向
  • 心理的にコントロールする関わり(「そんな点数じゃダメ」「やれと言ったらやりなさい」など)
    → 不安・抑うつ・問題あるネット利用の増加と関連

が報告されています。

AI・デジタル利用に絞った研究でも、

  • ただ禁止・制限する「制限的介入」だけではリテラシーは育たず
  • 一緒に内容を話し合う「能動的介入(Active Mediation)」の方が効果的

と報告されています(Nielsenら, 2019 / Wisniewskiら, 2015)。


3. AIツール×親の関わり:具体的な研究紹介

生成AI利用の「家族タイプ」:Zhangら(2025)

Zhangら (2025) は、家庭で生成AIをどう扱っているかを調査し、
次のような6タイプを見つけました。

  • 懐疑的:リスクを恐れてほぼ使わせない
  • 慎重:ルールや見守りをしながら、探索的な利用を許す
  • ハンズオン:親がガッツリ手を出して一緒に操作
  • 共同利用:親子で楽しみながら使う
  • 信頼型:プラットフォーム任せで、あまり中身を見ない
  • 独立型:放任でほぼ関わらない

この中で、子どものリテラシー・学びの面でバランスが良かったのは「慎重」「共同利用」タイプでした。

  • 完全禁止ではなく、ルールと見守りをセットで使う
  • 親子で画面を見ながら、「何が面白い?」「どこが怪しい?」と対話する

といったスタイルが、AI時代の「ちょうどいい距離感」として支持されています。

ITSのダッシュボードが「親の役割」を変える:Broderick (2011), Borchers (2025)

ASSISTments という数学ITSを使った研究(Broderickら, 2011; Borchersら, 2025)では、
親に子が「どの単元をどれくらい頑張ったか」を知らせる通知を送ると

  • 親のログイン頻度が増え
  • 子どもの学習成果も有意に伸びた

という結果が出ています。

興味深いのは、

  • 親が「数学を教えられるようになった」からではなく
  • 「がんばってるね」「ここ大変そうだけど、どう?」と声をかけるきっかけが増えたことがポイントだった

という解釈です。

AIは、親を「家庭教師」にするのではなく、
「応援団長」や「マネージャー」にするデータを提供している

という位置づけが、実証的にも支持されつつあります。

コロナ禍のリモート学習からの教訓:Thorellら(2021)など

COVID-19によるリモート学習期の研究(Thorellら, 2021 ほか)からは、次のような傾向が報告されています。

  • 親が「先生の代わり」をしようとしすぎる
    → 親のストレス増大 → 子どもの不安・学習意欲の低下に結びつきやすい

一方で、

  • 学習環境(時間・場所・端末)を整える
  • スケジュールづくりを手伝う
  • 気持ちのサポートをする

など「自律性を支える構造づくり」に集中した家庭では、子どもの適応が高かった。

つまり、

コンテンツそのものを細かく教えようとするより、
学びやすい枠組みと、気持ちの拠り所をつくる方が、結果的に学びが続きやすい

ということが、データからも示されています。


4. AI時代の「良い関わり方」3つの原則

研究をざっと眺めると、AIの有無にかかわらず共通して浮かび上がる「親のコツ」は、だいたい次の3つに集約できます。

原則1 「教える」より「共に学ぶ」

  • 親がデジタルに苦手意識を持っていても問題ありません。
  • Zhangら (2025) などの研究は、
    「分からないから関われない親」より、「分からないけど一緒に考える親」の方が、子のリテラシーが伸びやすいことを示唆しています。

具体的には、

  • 「このAI、どこまで賢いんだろうね?一緒に試してみようか」
  • 「ママも分からないから、AIに聞いてみてくれる?」

と、「親も学び手」である姿を見せることが、子どもの有能感(できる感覚)と自律性を高めます。

原則2 「結果」より「プロセス」をほめる・聞く

AIがあれば、きれいな回答や作文はすぐ出せます。
だからこそ、評価の軸を「どんなプロセスでそこにたどり着いたか」に移す必要があります(SRL・SDTの観点)。

  • ×「100点じゃん、えらいね」
    ○「どんなふうにAIを使ったの?どこまで自分でやって、どこから手伝ってもらった?」
  • ×「宿題早く終わったならいいよ」
    ○「今日はどんな工夫をした?AIに何を聞いたら、一番役に立った?」

こうした「結果」ではなく「プロセス」を尋ねる質問は、
「AIをどう賢く使うか」を考えるきっかけになり、自己調整学習の力を育てます。

原則3 「監視」ではなく「対話的な見守り」

  • 履歴をこっそりチェックするだけの「監視」は、子どもからはコントロール(心理的統制)として受け取られやすく、
    SDT研究ではメンタルや動機づけにマイナスだとされています(Bradshawら, 2024)。
  • 一方で、Wisniewskiら (2015) や Nielsenら (2019) の研究では、
    「一緒に話し合うタイプの関与(Active Mediation)」が、リテラシーと安全な利用にプラスであると報告されています。

たとえば、

  • 「今週、AIが一番変なこと言ったのってどんなやつ?」
  • 「AIの答えで、『ほんとかな?』って思ったのあった?」

といった、フラットな雑談の中で利用状況を聞くのがポイントです。


5. 場面別・声かけの具体例(Scaffoldingガイド)

SRLモデル(予見・遂行・省察)+SDT(自律性支援)をベースに、
場面ごとの声かけを整理してみます。

勉強を始める前(予見:目標・環境づくり)

NGになりがちな声かけ

  • 「早く宿題やりなさい!」
  • 「今日はドリル5ページやるから!」
おすすめの問いかけ
  • 「今日はどの教科をどこまでやるつもり?」
  • 「AI(ドリル)は、どんなときに使うのが良さそうかな?」
  • 「集中するために、スマホはどうしておこうか?」

→ 目的と計画を子ども自身に言わせることで、自律性と自己調整を支えます。

行き詰まったとき・AIを使おうとするとき(遂行)

やりがちなパターン

  • 「貸して。ママがやる」
  • 「分からないならAIに聞きなさい」
おすすめの問いかけ
  • 「どこまでは分かってて、どこから分からなくなった?」
  • 「AIには、答えじゃなくてヒントをもらうとしたら、なんて聞いてみようか?」
  • 「この説明、納得できる?自分の言葉で言い換えるとどうなる?」

→ 「AI=答えをくれる機械」ではなく、「ヒントをくれる相棒」として使う感覚を育てます。

終わったあと・AIの答えを見たあと(省察)

結果だけを見る声かけ

  • 「何点だった?」
  • 「終わったならいいよ」
省察を促す声かけ
  • 「AIの答えが正しいかどうか、どうやって確かめた?」
  • 「AIの説明と自分の考え、どこが同じで、どこが違った?」
  • 「今日のやり方で、次に変えてみたいところはある?」

→ ファクトチェックとメタ認知(自分の学び方を振り返る力)を、一緒に育てていきます。


6. 避けたい関わり方と、その「言い換え例」

研究でリスクが指摘されている関わり方と、代わりのフレーズを並べておきます。

テクノロジー丸投げ(放任)

  • NG:「タブレット渡してあるから勝手にやるでしょ」

→ 学習アプリよりゲーム・動画に流れがち(Nielsenら, 2019)

  • 言い換え例:
    「最初の10分は一緒に画面見ようか。そのあと一人でやってみて、最後に今日のことを教えて。」

スパイ的監視

  • NG:(無断で履歴をチェックして)「AIにこんなこと聞いてたでしょ!」

→ 信頼感を損ない、隠れて使う行動につながりやすい(Wisniewskiら, 2015)

  • 言い換え例:
    「安全のために、AIでやりとりした内容は一緒に見ることにしてもいい?」
    「何か変なことが出てきたら、すぐスクショして見せてね」

AIの過度な悪者扱い

  • NG:「AIなんてズルに決まってる」「そんなの使うのは禁止」

→ リテラシーを学ぶ機会そのものを奪ってしまう

  • 言い換え例:
    「AIは便利だけど、間違えることもあるんだって。どうやったら賢く使えると思う?」
    「宿題を全部やらせるのはダメだけど、ヒントをもらうのはOK、みたいに使い方のルールを一緒に決めようか」

まとめ:AIが進化するほど、親の「問いかけ」が効いてくる

この記事で紹介した研究では、少しずつ表現は違っても、共通してこう語られています。

  • AIやデジタル教材は、うまく使えば学びを支える強力なツールになりうる
  • しかし、「答えを出す役」をAIに渡してしまうと、
    「学び方」「考え方」を支える人の役割が、これまで以上に重要になる

つまり、

AIが賢くなればなるほど、
親の「問いかけ」と「対話」が、子どもの学びの質を左右する

ということです。

レイ先生
レイ先生

親がすべてを分かっている必要はありません。
完璧な使い方を知っている必要もありません。

  • 「一緒に試してみよう」
  • 「AIの言うこと、本当に正しいかな?」
  • 「今日はAIをどう使ったら、いちばん役に立った?」

そんなシンプルな対話の積み重ねこそが、AI時代の家庭学習で、子どもの探究心と自律性を守り、伸ばしていく土台になります。

Q
参考文献
ABOUT ME
レイ先生
レイ先生
AI教育デザイン研究者
京都市出身
 現在は国立の教育大学で教育方法学の研究に取り組んでいます。教育現場での活動経験と海外のAI開発に携わった経験を持ち、AIの技術と教育現場の知見を組み合わせて、学習をより良くするための可能性を探っています。

 英語を得意としており、海外企業との取引経験や日本人向けの英語学習補助者として働いていた経験があります。海外の研究論文や最新技術の情報を読み解き、教育とAIの交差点にある最新情報をいち早く入手しています。

 当ブログでは、“AIが学習をどれだけ変えられるのか”をテーマに、保護者や教員のみなさまにとって役立つ情報をわかりやすくお届けいたします。
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