子どもの作文力はAIで伸ばせる?教育者視点で見るメリットと注意点、理想的な使い方

AIに作文を書かせるなんてズルじゃないの?

でも、うまく使えば作文嫌いが楽になる気もする…
生成AIが身近になってから、保護者や先生のあいだで、こんな葛藤が生まれています。
私は教育大学で教育方法学を学びながら、国内外の研究や実践報告を読む機会が多くあります。
それらを見ていると、
「AIで作文力は伸びる」という結果も
「AIに頼りすぎると考える力が落ちる」という結果も
どちらも存在する
というのが正直なところです。
この記事では、実際の研究・実践例をベースにしながら、
- AIで実際に伸びやすい「作文の力」
- 見落とすと危ないリスクや副作用
- 教育者目線で考えた「現実的なAIとの付き合い方」
を整理していきます。
1. そもそも「作文力」とは何か
まず、何を「作文力」と呼ぶのかを軽く整理します。
教育学や国語教育の文脈では、作文力はだいたい次のような力のセットとして扱われます。
- 内容面:体験や考えを思い出し、取捨選択して「何を書くか」を決める力
- 構成面:はじめ・なか・おわりを組み立てる力、論理の流れを作る力
- 表現面:語彙の選び方、比喩、文のリズムなど
- 技術面:文法、句読点、「てにをは」、誤字脱字など
- メタ認知面:「どこが伝わりやすいか/分かりにくいか」「どこを直すべきか」を自分で判断する力
生成AIは、このうち「全部を代わりにやる」こともできてしまうし、
逆に「一部だけサポートする足場」として使うこともできる、というのがポイントです。
だからこそ、
どの部分をAIに任せて、どこを子ども自身に残すかが、教育的には非常に重要になります。
2. 研究・実践例から見える「AIで伸びやすい作文力」
「書き出せない」を助ける:アイデア出し・構想支援
多くの子どもがつまずくのは「最初の一行」です。
何を書けばいいか分からない状態は、研究では「Writer’s Block」とも呼ばれます。
海外の研究では、AIをブレインストーミングの相手として使った学生は、
AIを使わなかったグループに比べて、
- 生成したアイデアの数
- アイデアの多様性
が有意に高かった、という結果が報告されています。
AIが
- 「どんな場面が一番心に残っている?」
- 「そのとき、どんなにおいがした?」
- 「その前は何をしていた?」
といった問いかけをしてくれることで、記憶やイメージが芋づる式に引き出されることが理由と考えられます。
「何も出てこない…」と固まってしまう子にとって、
AIは「考えるスイッチを押す相手」になり得ます。
ここでのAIの役割は“代筆”ではなく“呼び水”です。
語彙・表現のレパートリーを広げる
Z会などの事例では、AIによる英作文添削を継続利用した生徒で、
- 1文あたりの語数が増えた
- 同じ意味を別の言い方で表現できるようになった
といった変化が報告されています。
日本語の作文でも、
- 「『楽しい』以外の言い方を教えて」
- 「『すごい』を使わずに書きたい」
というお願いに対して、AIは文脈に合った言い換え候補をたくさん提示できます。
これは、ヴィゴツキーのいう「足場かけ」に近く、
「何となくこう言いたいんだけど、ぴったりの言葉が出てこない」
という状態の子に、「候補の言葉」を見せてあげることで、
- 自分の感情とことばをより細かく結びつけていける
- 「こういう言い方もあるんだ」と語彙の地図が広がる
という効果が期待できます。
即時フィードバックで「推敲」の習慣が生まれる
ある公立小学校の実践では、
2年生がタブレットに書いた「どうぶつカード」の文章を、AIキャラクターが読み、
- 良いところを具体的に褒める
- 「あと1文くわえてみよう」「もっと詳しく書いてみよう」などのアドバイスを出す
というアプリが使われました。
この授業では、
子どもが何度も書き直しをしながら“合格”を目指すことを通して、
クラス全員が授業時間内に「推敲」の体験をできた。
という報告が出ています。
従来の紙の作文だと、
- 授業で書く
- 数日後に先生の赤ペンが返ってくる
- そのころには本人の気持ちが冷めている
という流れになりがちです。
AIによるその場でのフィードバックは、プロセス・ライティング(書き直しを重視する指導)と非常に相性が良いです。
「一発書きで終わり」から
「直しながら良くしていくのが作文」という感覚に変えやすいところが大きなメリットです。
心理的ハードルを下げて「書いてみよう」を増やす
Z会の英作文AI添削の例では、
- 課題の提出率が約3割以上アップした
- 間違いを恐れずに書く生徒が増えた
といった変化が見られたと報告されています。
人間の先生に見られると思うと、
- 「こんな文を書いたら笑われないかな」
- 「赤ペンだらけになったらイヤだな」
と身構えてしまう子も多いですが、AI相手だと、
- 何回書き直しても怒られない
- 表現を試してみても否定されない
という心理的安全性が生まれやすくなります。
これは特に、
- 読み書きに苦手意識がある子
- 日本語や英語に自信のない子
にとって、「とにかく書いてみる」きっかけになります。
3. 研究が示す「危ない側面」:思考力低下・わかったつもり・個性の喪失
ここからは、あえて厳しめに「リスク側」を整理します。
認知的オフローディング:考えるべきところをAIに丸投げする危険
若者を対象にした研究では、
AIツールの使用頻度が高い人ほど
批判的思考テストの得点が低い
という負の相関が見られた、という報告があります。
人間は元々、
- 計算 → 電卓
- 日程管理 → カレンダーアプリ
のように、「外部ツールに仕事を任せる(オフローディング)」性質があります。
生成AIはそれをさらに一歩進めて、
「アイデアを出す」「構成を考える」「文章を組み立てる」
という、本来なら脳が一番鍛えられる部分まで代行できてしまいます。
慶應大の研究者も、
0→1を生み出すところをAIに任せると、
脳を鍛えるべき成長期の子どもにとってはマイナスになりうる
と警告しています。
「わかったつもり・書けたつもり」の危険
AIが一瞬で整った文章を出してくれると、子どもは
- 「自分もこれくらい書ける」と勘違いしやすい
- 実際にテストで自分だけで書いてみると、全然書けない
というギャップが生まれます。
研究では、AIのサポート付きで練習したグループが、
AIを使わない本番テストでは点数が下がったという結果も出ています。
これは、
見た目の出来(アウトプット)は良くなっているけれど、
頭の中の「考える回路」が育っていない
状態と言えます。
この「脆い学力」は、長期的に見るとかなり危険です。
AIの文体に飲み込まれる:子どもの「声」の消失
生成AIの文章は、多くの場合、
- 無難で
- きれいにまとまっていて
- 大人っぽい
という特徴があります。
一方で、子どもの作文には
- 言葉足らずだけど、妙に印象に残るフレーズ
- 変な比喩だけど、その子らしい言い方
- 予想外の視点
のような「その子にしか書けない感じ」があります。
AIに「きれいに直して」と任せ続けると、
- こうした子どもならではの表現が消え、
- どの子の作文も「同じようなAIっぽい文」になってしまう
リスクがあります。
作文教育の大事な目標の一つは、
「自分の声(Voice)を見つけること」です。
そこまで含めて考えると、
AIによる過度な「きれいな大人文体」への修正は、教育的にはかなり危ういと言わざるを得ません。
不正利用・バイアス・ハルシネーション
- 読書感想文を「本を読まずにAIに書かせる」
- 調べ学習のレポートを丸ごと生成させる
といった使い方は、文科省のガイドラインでも不適切/不正行為と明記されています。
また、AIは
- 実在しない本や論文をそれらしくねつ造する
- 社会的な偏見(ジェンダー・人種など)を含む文を出してしまう
こともあり、小学生がそれを「正しい」と信じてしまう危険性は大きいです。
4. 教育者視点で考える「望ましいAI協働モデル」
ここまでの研究・実践を組み合わせると、
「プロセスごとに、AIをどこまで入れるかを決める」
という考え方が現実的です。
プロセス・ライティング×AIの基本方針
作文を
- 構想(アイデア出し)
- 下書き(ドラフト)
- 推敲(リライト)
- 振り返り(リフレクション)
の4段階に分けて、AIの関わり方を整理してみます。
① 構想:AIは「インタビュアー」役(使ってよい)
- AIに「遠足の作文を書きたいから、質問で思い出させて」とお願いする
- AIの質問に、子どもが自分の言葉で答える
- その答えをメモして、構成案を作る
この段階でAIがやるのは「問いかけ」だけです。
内容を決めるのは子ども自身。
② 下書き:ここは「AI断ちゾーン」(使わない)
いちばん大変で、いちばん脳が鍛えられるのがこの段階です。
- 子どもは、構成メモや頭の中のイメージを頼りに
- 拙くてもいいので、自力で一気に書いてみる
ここでAIを入れてしまうと、
エネルギーをかけて「言葉をひねり出す経験」がごっそり抜け落ちます。
教育方法学の立場から見ると、
ここは意識的に「AI禁止」にする価値が高い部分です。
③ 推敲:AIは「編集者」役(限定的に使う)
下書きができたら、ここでAIの出番です。
自分の書いた文をAIに入力して
- 「良いところを3つ教えて」
- 「もっと詳しくした方がいいところを1つ教えて」
- 「『すごい』を使いすぎたから、別の言い方を3つ提案して」
など、視点を絞ったフィードバックをお願いします。
大事なのは、
- AIの提案をそのままコピペしない
- 子どもが「どれを採用するか」を自分で決め、
- 自分の手で書き直す
という流れです。
「最終決定権は子ども」に置いておくことが、主体性・オリジナリティの維持につながります。
④ 振り返り:AIは「鏡」役(使ってもよい)
書き終わったあとに、
- 「この作文のよかったところを3つ教えて」
- 「読み手にとって分かりにくそうなところはどこ?」
とAIに聞き、その答えを材料に親・先生と話し合うことで、
- 「どんな点に気をつけると、もっと伝わりやすくなるか」
- 「自分らしさが出ているのはどこか」
を言語化できます。
ここはメタ認知(自分の学びを振り返る力)を育てる場面です。
5. 「やっていい使い方」と「やめた方がいい使い方」
最後に、保護者・教育者向けに、
研究・実践から見えてきた、GOOD/NGな使い方を整理します。
GOOD:作文力UPにつながりやすい使い方
① 構想段階での「壁打ちインタビュー」
読書感想文を書きたいので、
本の内容や気持ちを思い出せるような質問を、
小学○年生向けに1つずつ聞いてください。
答えを教えるのではなく、私の考えを引き出す質問にしてください。
→ 子どもは質問に答えることで、書く材料を自分の言葉で出していきます。
② 推敲段階での「類語ソムリエ」
この作文で『楽しかった』を3回使ってしまいました。
小学3年生にも分かる、別の言い方を5つ教えてください。
→ 語彙の幅が広がり、「言葉を選ぶ感覚」が育ちます。
③ 意見文での「反対意見出し」
私は『給食の時間にもっと自由時間がほしい』という意見です。
この意見に反対する立場になって、
小学生にも分かる理由を3つ教えてください。
→ 異なる視点に触れることで、論理の組み立てや理由付けの力が鍛えられます。
NG:作文力を削ってしまう危険な使い方
❌ 丸投げプロンプト
「『ごんぎつね』の読書感想文を400字で書いて」
これは、
- 思考のプロセスが完全にすっ飛ぶ
- 学習評価の観点からも不正に近い
ので、教育的にはアウトです。
❌ 「きれいに直して」→丸写し
「この文章を、小学生の作文として自然で上手な文に書き直してください。」
と頼んで、出てきたものをそのまま清書させるのもNGです。
- なぜ直されたのか
- どこが良くなったのか
を理解しないまま結果だけ受け取っても、力は付きません。
6. 結局、AIで子どもの作文力は伸びるのか?
教育方法学や研究・実践例を踏まえて、ざっくりまとめると——
- AIは「書く力」を伸ばせる
- 条件付きで
- 使い方を選べば
- とくに「構想」「推敲」「語彙」「動機づけ」の面で
- AIは「書く力」を奪うこともある
- 0→1の部分を丸投げしたとき
- 下書きから清書まで全部AIにやらせたとき
- 子どもが「自分で考えた」と錯覚して終わってしまうとき
…という、両刃の剣だと言えます。
教育者・保護者に求められるのは、
AIを禁止することでも、全面的に任せることでもなく、
「どの段階で・どこまで・何のために」使うかを一緒にデザインすること
です。
- 構想:AIと対話しながらネタを掘り起こす
- 下書き:AIを切って、自力で書く
- 推敲:AIの力も借りながら表現を磨く
- 振り返り:AIも含めて、自分の書き方を見直す
こんなふうに「プロセスの中にAIを位置づける」ことができれば、
生成AIは、作文嫌いの子を助け、表現の可能性を広げる強力なパートナーになり得ます。